昭和ヒット曲の裏側――あの時代をつくった仕掛け人たち

令和のヒット曲はイントロが簡素なものが多い、と言われる。
いきなりサビから入るパターンもよくあるそうで。
でもそれが本当にそうなのかどうか、私にはわからない。
何故なら、私はほとんど、今の音楽を聴かないから。

 

ただそういう傾向が本当にそうなのだとすると
昭和の「イントロで世界観を作る時代」から
令和は「一瞬で本題に入る時代」に変わったということなんだろう。
それはもちろん、サブスクとSNSの普及が大きい。
TikTokなんかは気に入らなければ即スキップできるし、
つまりイントロが長くてなかなか本題にたどりつけなければ
脱落リスクが高まる構造になるわけで
これは、時代の意思と事情だから仕方がない。

 

ただ、それこそ半世紀以上経っても昭和人の胸を一瞬でときめかせる昭和歌謡の魅力は
じつはイントロや間奏で描かれる曲の世界観があってこそ、と言っても
過言じゃないように思っている。
で、改めて凄さに気づかされるのが
作詞家でも作曲家でも歌手でもなく
その、まぶしい光の陰に裏方としてひっそりと存在した
アレンジャー、”編曲家”という、曲の最終責任者のような仕事だ。

 

もちろん、作曲家が編曲家を兼務することは多々あって

その楽曲の世界観をグワぁーっとスケールさせるイントロや間奏まで含めて

昭和のヒット曲は成立していた。

昭和歌謡は、歌手、作詞、作曲、アレンジ(編曲)の四位一体で、どれが欠けてもダメな

いわば総合芸術だったのだ。

 

たとえば、尾崎紀世彦「また逢う日まで」、いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」など

楽曲のアレンジも手掛ける作曲家・筒美京平さんの場合は、

強烈なインパクトを持つイントロで、最初の音が鳴っただけでその楽曲だとわからせ

歌が始まる前に、その曲固有の、独特の世界観を鮮やかに描く。

沢田研二「時の過ぎゆくままに」「カサブランカ・ダンディ」などの曲・編曲を担当した大野克夫さんは

間奏も含めて、その曲と歌手までもを最大限ドラマティックに魅せるアレンジの天才で

編曲による”演出の力”も見せつけてくれた。

山口百恵「横須賀ストーリー」「プレイバックPart2」、中森明菜「少女A」をはじめ

アイドルの多数のヒット曲を手がけた萩田光雄さんの場合も、そのアレンジでなければ

あそこまで素晴らしい世界観は完成しなかっただろうと思わせるビッグヒットたちを残した。

これらの例を観ると、編曲は単なる装飾ではなく、”売るための設計”だったようにも思える。

 

サビ頭、イントロほぼなし、曲も短め、の令和の曲は、

おいしいところを最初に出す「掴み」を重視する作りで

一方昭和では、作品の顔となるイントロで世界観を示し、間奏でドラマを盛り上げ、エンディングで余韻を残す

聴かせるための「全体の空気作り」が勝負どころ。その違いは明らかだ。

どちらが良いとか、正解ということはないのだけれど

単純に私の場合、”刺さる”のは後者だ。

 

時代の価値観や好みは変われど、ともあれ売れた昭和歌謡は、素晴らしい編曲までのフルセットだった。

編曲家、という役割が抜け落ちていたら、そこまで感動的にあの曲を思い出せるだろうか、と思う。

ただ、食わず嫌いも良くはないので

編曲にこだわらなくても刺さってくれる令和の曲、

これからはちょっと意識してちゃんと聴いていこうかな、と少し思っている。

 

 

column

地上波を忘れたテレビ

2年くらい前から、自室のテレビで見るのは動画コンテンツオンリーになった私。 なぜか。理由はあるんです。 それは、何が原因なのかはわからないけれど 私の部屋のテレビ、地上波がまったく映らなくなってしまったから。 &nbsp ... 続きを読む...

なぜ山口百恵は愛されたのか|その人気の本質

今も、その存在を人々の記憶の中に鮮明に残し じつに半世紀という永い時が過ぎても 今なお変わることなく愛され続ける昭和のトップアイドル 山口百恵。   なぜこの人は令和の今になっても 人々の心に、鮮やかに生き続け ... 続きを読む...

失って気づく、昭和歌謡のすごさ|歌手たちの“歌のうまさ”とは何だったのか

失って、はじめて気づくものの価値。 いくつかのことに言えることだと思うのだが、 これに同意してくれる人は多いはず。   「昭和の歌手は、本当に歌がうまかった」。   なので、今回はそれについて少し掘り ... 続きを読む...
Rusty Padlock On Blue Door ALT

令和に再評価される昭和歌謡。その理由は

昭和のヒット曲が、令和の今、再び脚光を浴びている。 中島みゆきの「時代」、久保田早紀の「異邦人」、岡田奈々の「青春の坂道」 そして松原みきの「真夜中のドア〜Stay With Me」。 いずれも発表から数十年を経た楽曲が ... 続きを読む...

昭和ヒット曲の裏側――あの時代をつくった仕掛け人たち

令和のヒット曲はイントロが簡素なものが多い、と言われる。 いきなりサビから入るパターンもよくあるそうで。 でもそれが本当にそうなのかどうか、私にはわからない。 何故なら、私はほとんど、今の音楽を聴かないから。 &nbsp ... 続きを読む...

恐怖の原体験は、「ザ・ガードマン」の中に

子供の頃、この日だけは夜更かしを許されて楽しみに観ていた大人向けのドラマ 「東京警備指令 ザ・ガードマン」。 東京パトロールという架空の警備会社に属する私服の警備員たちが 毎回、潜入捜査などで刑事さながらの活躍で事件を解 ... 続きを読む...

『とうふ〜』の声も懐かしい、昭和の豆腐屋とラッパの記憶

夕暮れの街に響く、どこか間の抜けたような、しかし耳に残る音。 「プ〜」と鳴るラッパの音は、豆腐屋さんが近づいてきた合図だ。   昭和の頃、豆腐は毎日買うものだった。 冷蔵庫が今ほど当たり前ではなかった時代 でき ... 続きを読む...

昭和の夜から変わらない、チャルメラの音はなぜ消えない?

夜が更けてくると、遠くからかすかに聞こえてくる「チャラリ~ララ♪ チャラリラララ~♪」という音色。 屋台ラーメンがやって来た合図だ。   昭和の頃、仕事帰りの大人たちは、その音に引き寄せられるように足を止めた。 ... 続きを読む...

『い~しや~きいも~』昭和から続く石焼き芋の売り声

夕暮れどき、どこからともなく聞こえてくる「い~しや~きいも~、や~きいも♪」という声。 あの独特の節回しは、昭和の時代からほとんど変わっていない。 子どもの頃、この声が聞こえると家の中にいながらそわそわした。 財布を握り ... 続きを読む...

「プレイバックPART2」は「勝手にしやがれ」のアンサーソング?

山口百恵「プレイバックPART2」の2コーラス目の歌詞 “勝手にしやがれ 出ていくんだろう”のフレーズを聞いたとき 内心「あれ?」と思った人は少なくなかっただろう。 私もただの偶然だと思っただけだった。   「 ... 続きを読む...

沢田研二がいた、まぶしい時代。

  ジュリー全盛期だった’70年代、筆者はジュリーのファンではなかった。 というより、「ファンではないということにしよう」と、幼なごころに、そう決めた。   筆者は彼よりちょうどひとまわり ... 続きを読む...